おとなのひみつ

 
“おとな”は刺激的だった。
 同じ家で暮らす怒るとこわいマーサとか、危険区域に立ち入ると金切り声を上げるセキュリティ。裏路地で不気味に笑っている放浪者や、角に立ちぼうけのくさびれたおんな。
 “おとな”だけが刺激だった。

「みてくれ」
 ぱたんとドアを閉めきって、切羽詰まった声で遊星が言った。二段ベッドの上でプロレスごっこをしていたジャックとクロウが、柵の間からひょこりと頭を覗かせる。遊星はすこし興奮していて、ほっぺたがあかい。なにかを隠してきたかのように、服を抱き締めている。
 おやつでもくすねてきたのだろうか。ジャックは梯子を使って降り、クロウはそのまま飛び降りた。しゃがみこんだ遊星を取り囲む。
「なんだなんだぁ」
「いっておくが甘納豆ならいらんぞ。もうたくさんだ」
「ちがう。おやつより、もっといいものだ」
 そう言って服の下から覗かせた雑誌には、乳首だけを手で隠した裸のおんなが、こちらを見ている写真が載っていた。クロウは思わず歓声をあげる。
「うおー! すっげえ! でっかいおっぱい!」
「遊星、これ、どうしたんだ」
「裏の溝でみつけたんだ。全然、よごれてなかったから」
 みんなが見えるように雑誌を床に置き、隠すように覗き込んだ。ジャックが恐る恐るページをめくる。豊満な乳房におんなの長く細い指が食い込み、その柔らかさを見せびらかしている。紙面いっぱいに広がった肌色は、ちいさな子どもたちの瞳にどううつるのだろう。
「すげえ……」
 クロウがごくりと唾を飲み込んだ。遊星は息を吐いた。ページをめくる指が、どんどん忙しくなる。
 ジャックはこのとき、周りの子どもよりも大人びていたから、おんなの裸を見て、興奮したら、することもわかっていた。
 紙切れに夢中なふたりをちょっとだけ鼻で笑ってから、ズボンとパンツを下ろした。クロウがぎょっとする。
「お、おい! おしっこはここじゃねえぞ」
「ばかもの。“おとな”はこうするんだ」
 未発達な性器に手を伸ばし、くちをだらしなく開けて唾液を垂らした。そしてがむしゃらにこすって、快感を追うふりをするのだ。
 なぜって“おとな”はこうするものだから。おんなの裸に興奮して、おちんちんが膨らむから。
 拙い手技では勃起するのも遅いが、その遅さを差し引いても、ふたりの興味を引くのには充分だった。他の子どもよりも大きいジャックのおちんちんが、少しずつだが大きさを増していく。“斬新”だった。
「すげえ……。このおっぱいもすごいけど、ジャックもすげえ」
「さすがジャックだ。なんでも知ってる」
「ふ……。当たり前だ。おまえらもやってみろ。気持ちいいぞ」
 促されて、顔を見合わせる。そして肌色の雑誌をオカズに、ジャックをお手本にしながら、自分の性器を触った。
 普段排泄するときにしか触らないものを、部屋で、しかも友だちと一緒に触るなんて、それだけで眩暈がしそうなほど刺激的だったから、クロウと遊星は、すぐにのめり込んだ。
 ジャックのは、けっこう大きくなってきていて、もうはちきれそうだった。
「んっ……、はあ、はあ」
 性器を擦ったあとはどうすればいいのか、そういえば知らない。遊星とクロウは、同じタイミングでジャックを見た。
 そのときのジャックはちょうどもうクライマックスで、ちいさな鈴口が嘶いていた。その異様で、刺激的な状態に、ふたりは釘付けになった。思わず手を止めると、ジャックが高い声をあげて絶頂した。精子はまだ出ない年頃であるものの、快感のしるしである透明な汁が、すこし飛び出た。ふたりは歓声をあげる。
「おおっ」
「すごい……」
「はあっ、はあっ。どうだ、すごいだろう。これが“おとな”だ」
「ジャックはおとななのか……」
 遊星は萎んだジャックのおちんちんを見て、すこし距離を感じたように、しょげた。ジャックは威張りくさっている。それを見たクロウは、面白くなさそうに頬を膨らませて、
「……へっ。んなの知ーらねえっ。遊星、ふたりでやろうぜ」
 クロウと遊星が向かい合わせになる。そしてきょとんとした遊星のおちんちんを、クロウの手がやさしく触った。
「あっ」
「遊星も、おれの。さわって」
 頬を桜色に染めて、クロウがいたずらに囁いた。遊星は言われるがままにクロウのそれを触り、やわやわと擦った。クロウも、自分がされた分だけ、遊星のを触った。
 ジャックは放心状態でふたりを見ていた。
「あ、あ……。なんか、なんかぁ……」
「へん、だっ……」
「ゆうせぇ、おれ、あっ!」
「くろおぉっ!」
 ジャックと同じ透明な汁が、お互いの服をよごした。でもそんなことはお構いなしに、ふたりは熱い満足げな息をほうと吐いて、見つめ合って、精通したのだ。
「クロウ……」
「遊星……」
 恋におちたふたりのように、余韻を孕んだ眦で、お互いを見つめる。
 その時間があまりにも長かったので、ジャックは我にかえり、本当は仲間外れにされたさみしさで喚きちらしたかったが、抑えるのが“おとな”なので、ぐっとこらえて、ふん、と鼻をならし、
「どうだ、すごいだろう。おれはおとなだから」
 遊星もクロウもジャックに尊敬の眼差しを送った。それほどさっきの快感は凄まじく、感動的だったのだ。
「ジャックすげえなあー」
「ああ。おとなだ、ジャック」
 てっきり反論してくるものだと思っていたジャックは、空振りをした気持ちになって、くやしくなったので、そばにあったティッシュを投げつけて、はやく服を拭け! マーサに叱られるぞ! と、ぷいっとそっぽを向いてしまった。