ホワイト・イエロー・レッドランプひとつ頼みごとがあるんだ、と肩をたたかれてしまったのなら、そこに断る理由などなくなる。なすがままに背中を追いかけて、渡されたビデオカメラごしに、親友をのぞきみる。 「どうだ、遊星? こんなかんじでいいか?」 テスト用に録画した映像を見せて、不器用にゆがんだ口元を確認する。すでに乱れはじめている息から、熱帯の夜中のような、こもった熱をかんじとる。いつもは透き通ってきれいなひとみが熱情にとろけて潤んでいるのが、すばらしく扇情的で、背徳さえ感じ得る後ろめたさを秘めている。 ふーふーと、規則的な息づかいが録音された。犬歯がのぞいている。 服を一糸とも脱がず乱さず、ジッパーを全開にしているだけだ。そこから腹につきそうにまで反り立った一物を見て、はて遊星はトランクスだったかと考える。クロウの記憶によれば、拾いものの布をふんどしにしていたり、ジャックにもらったボクサータイプのものを履いていたはずだが…… アキなどにプレゼントされたものだろうか? 女子というものは、クロウにはいまいち理解できないが、身につけられるような贈り物をよろこぶ性質がある。自分がおくったものが相手の肌にふれること、そのことを信頼感と思いちがえて、勝手に興奮する節があるのだ。そうはいっても、クロウにはなにも関係ない。遊星が遊星であれば、身につけているものなどはどうだってよかった。 かたそうな布からひょっこりとかおを出す、肉感あふれる竿が、血管を浮き上がらせている。まばらに生えた陰毛すら、いじらしくてかわいらしいと考えてしまう。 ふだんは鉄仮面のように変わり映えしない表情が、快感にゆがんで、頬をあかくしている。のけぞるように扱きながら、根元をしぼる。限界まで我慢した方が気持ちいいと知っているからだ。その子どものような追従に、クロウがもぞもぞと股をすり合わせはじめた。 「ごめんな遊星、おれ、勃ってきちまったみてーだ。わりい……」 「え? おれの変態的な行為を見て勃起してくれているのか……? ックロウ!! なんてかわいいんだ……」 蜜を塗りこむようにねちねちと、均衡がくずれぬよう絶頂がちかくなれば緩まる速度の上下が、遊星の絶望をはらんだ表情とは裏腹に、倍速になる。そのままノンストップで一度射精して、濃い練乳のような液体をひっかけられた機体をまなでる。まるいフォルムは女性的だ、精液を受け止めたボディが、おんなの胸のように広くなめらかにかがやく。 「クロウ、ここをアップにしてくれ」 あたたかい汁でよごれたところを指さしていると、またすぐにかたくなった。何事もなかったかのように勃起させているのを見て、クロウのそれも連動したようにおおきくなった。 画面には四角く切り取られた機体がおさまっている。脚をすり合わせると、脳をじりじりと焦がすような、じれったい快感がはじけた。線香花火にも似たささやかな火花に、脳みその真ん中のところが蕩けだしていくみたいにもかんじた。 「待ってろ。すぐらくにしてやる」 「あ、遊星? やめ……」 引けた腰をぐいっと引きよせて、ふくらんだ股間部分にかおをすりつける。かたい布越しではあるが、鼻がやわやわとそれを刺激して、抵抗しがたい欲望に押し流される。 体液と汗がいりまじったにおいを肺いっぱいに吸い込んで深呼吸をくり返す。息を吐くたびにあつく熱をもつ。内またになろうとしたところに片腕をいれて阻止し、ジッパーを下ろしきる。 「はあ……いいにおいだ。しばらくそのままでいてくれないか? クロウのチンカス舐めとりたいんだ」 「物好きなやつだなァ……」 足元にすがりつくようにしている遊星を、四角のデジタル画面になんとかおさめる。それはいちばんお手軽で、そそるAVだった。 「ああ! クロウのチンポ! すっかり蒸れてる。すーはーすーはー」 亀頭の部分だけをくちびるで覆って、鈴口を舌先でつついたり、さっきのことば通り、恥垢を器用に舐めとっては自分の口内になすりつける。根元をすこしきつめに掴みながら、地肌に生えた陰毛を指先でくるくると捩じる。自分の唾液で濡れた竿を、わざと音が鳴るように吸いながら、遊星はギンギンに勃起していた。 「こっち向けよ遊星」 髪の一部を持ち上げられる。目線をすべらせていくと、無機質な黒のレンズがこちらを観察していた。 「くろうっ! ううう……クロウかわいすぎてザーメン止まらない……でも安心しろ、おれの射精は108回まであるぞ……」 「なにが安心だよ! いいからしゃべってねーでやってくれよ」 バランスのいいからだをもってして、片足を持ち上げ浅ましいその股をなじる。喉のおくまでくわえた声が切羽詰まったように喘いだけれど、発されることなく胃袋におちた。くぐもった音声はくるしい快感を含み持っている。 ぐりぐりぐり。……じゅるるっ! ぐじゅぐじゅ……。ぐりぐりぐり。ァゥゥ。ぐりぐりぐり。ァゥーン……ずぞぞぞ。 ガレージのなかで、その単調できたならしい音ばかりが響いた。 深夜だった。黒のスタンプで塗りつぶされた窓の中身。この住宅街で夜中に蛍光灯をつけると、いやに明々として悪目立ちしてしまう。ただでさえ普段からエンジン音をうならせたり、爆発させたりしているのでやかましく、その上にこのような迷惑をかけることはさすがに憚れるのである。 天井からつるされた裸電球が、ほの暗い闇を輪郭にえがいている。白い機体にかかった、より濃いいろをした液体が、すでにかたまってしまっていた。 「ウーッ! ウオォ、えあう……」 「遊星~、なんて言ってんのかわかんねえよ。くるしいか? ごめんな……」 されるがままにしていた腰が、自分から動き始めた。口腔内のいちばん奥の空洞を突いて突いて突きまくる。舌の根っこが無理やりに押さえつけられると嘔吐いてしまって、涙がにじむのだけれど、浮かんだ玉をやさしく指ですくってやっているから、こぼれはしない程度の水分が、眼球の表面を潤している。 カメラのレンズのとなりの、録画中をしめす赤いランプが、チカチカと点滅をくり返し始めた。バッテリーの限界を告げるその点滅に、遊星が目をつける。 「う、ゴハッ、あああ、ン゛ーッンァ゛―ッ」 「遊星その声やべえからやめろ……あ~~!」 喉ちんこにぶっかけられた精液を、自分の唾液で押し流す。柔軟な舌で舐めまわしながら、青臭くて葉っぱみたいな苦味を飲みこんでしまう。遊星の喉のおくはせまくて気持ちがいい。鶴の生首で扱いているようだ。快感の余韻がひびいて、クロウはしばらく放心状態でいた。 デジタル画面に、遊星のおおきな目がこちらを向いているのがうつっている。うすい舌で下くちびるを湿らせながら、ゆっくりと手を伸ばす。 「ん、ああ~。ごめん。やっちまったよ。大丈夫だったか?」 腕をつかまれたことに意識を取り戻し、腰をまげてねぎらうその様子は、上気した頬とは打って変わった冷静な口ぶりで、異常なほど理性的だった。親指についたままの遊星の涙を奇麗よと飲みほして、ビデオカメラをそっぽに向ける。 「濃いな。さいきん抜いてなかったのか? いつもクロウにばかり働かせてしまって、わるいな……」 「おいおい、遊星に言われることばじゃねえよ。遊星こそ疲れてるだろ? 無理すんなよ」 なにげなしに俯いた遊星の目が、おのれの精液でよごれたクロウのズボンを見た。染みついてしまって、わざとらしい跡がのこっている。 「クロウ、ここ。すまない……」 「気にすんな、洗濯すりゃ済むはなしさ。それより遊星はいいのか? 舐めてやろーか?」 友愛にあふれた笑顔と、積極的なことばに遊星は感動で身をふるわせる。 親友の性器をみっともなくしゃぶり、そのうえ自分のきたならしい精液で大切な衣服を汚してしまった。そんな自分勝手なおのれのことを浅ましく、けもの以下だと卑下していたところに、先ほどのようなやさしいことばがかけられたとすれば、遊星の目にはもう滝のような涙しか浮かばない。口元を手で隠し、俯く。なんて器のでかいおとこなんだろう。 「ど、どした? 気分わるくなっちまったか? 吐くなら受け止めてやるから、我慢すんなよ!?」 クロウ。すっかり眉を下げてしまっている。心配の表情だ。犬畜生以下の自分に奉仕を申し出るにはとどまらず、ゲロさえも許容するなんて……遊星は頭がくらくらしてきた。 「げ、現実か……?」 「おいおいっ、ゆうせええ!? 大丈夫か? まずかったろう、ほら吐け!」 その場にしな垂れたからだを支えて、年頃の青年らしく節くれだった指を突っ込んで吐かせようとする。その真剣な表情と態度だけでおなかがいっぱいだった。この世で一番めぐまれているとおもった。いつのまにか失禁していた。 「くお゛」 「吐け吐け吐け吐けー!」 あいにく、胃袋の内容は乏しかった。飲みこんだ白いものと、煮詰めた飴のような黄色い胃液と、朝にたべたりんごがひとかけら流れ出た。流動して、ビデオカメラにまで行きつく。慌てて取り上げると、吐瀉物が画面におさまり、においもなにもないマグマになる。 びっしょりと濡れた股間の部分を見つけて、液体はまざりあい、黄色は同化する。 出しっぱなしのふたりの性器がぶらぶら揺れていた。 深夜のことだった。 ← |