突き抜けて三重奏

「なあおい! まだかよおお」
「ちょお、待てって!」
 四方を建物にかこまれたちいさな路地から、もくもくと煙があがっている。拾い集めた落ち葉に火をつけて、アルミホイルでつつんだ芋を放り込んだ。
 不格好な芋は、マーサハウスの裏の畑でとれたものだ。栄養や肥料などないに等しいからあんまり甘くないし、市場にだしても売れやしない。そこで肩をおとして帰宅した売り子にはなしかけたところ、もう痛んでるし捨てるよりはいい、やるよということで、貰ってきたのであった。
 ハウスのすぐ隣に生えたおおきな木のしたで落ち葉をあつめて、あぶないからと場所を移動してから火をつけたのだ。
「待ちきれねえよお、おれハラへってんだよおお」
「鬼柳、焼きあがるまでこのキャラメルを食べるといい」
「うお! まじでか! ありがとーゆうせー」
「遊星はまたそうやって鬼柳を甘やかす……」
 きめの細かい頬をふくらませて、ジャックがじと目で睨んだ。図体のでかいジャックがそうやってかわいこぶると、ほんとうは不気味にみえるはずなのに、なぜだかジャックだと、わがままな子どもみたいでかわいらしいのだ。これ以上手のつけようがないくらい整ったかおや、すらりと伸びた手足、蒲公英に似たうつくしい髪。
 ジャックはどこでなにをしていても絵になる、と遊星がつぶやくと、すぐに飛び上がり、目尻をやわらかくして、老若男女がうっとりするような笑顔をつくるのだ。
「あーあー。わかったからよお。てめえらちょっとは手伝いやがれ」
 ほそい棒で落ち葉をかき回していたクロウが、呆れたように眉をさげた。かき回さないと均等に火がとおらないから、だれかが火をみていないといけない。クロウは自分からその役を買ったが、いい加減つかれてしまったようである。
 四角いキャラメルをもごもごしながら、鬼柳がジャックの腕をつつき、いわれてるぜと囁いた。
「なに! 貴様がやるべきだろう!」
「なあああ? おれ、リーダーだぜえ?」
「リー・ダー・だ・か・ら・だ!」
 ジャックがいちいち立ち上がり力説するようにいうので、クロウはあたまがいたいというように首をふって、はいはいわるかったよ、おれがやるよといった。半ばうんざりしたようなクロウを察して、遊星がその棒を強引にゆずりうけ、もさもさと火をいじくり始めた。
「遊星、いいよ」
「いや、いいんだ。クロウにばかりまかせても、わるいしな」
「そうかあ。ありがとな」
 あたまのうえで、びゅうびゅうと風がふいているにも関わらず、なんだか和やかな空気がながれている。遊星とクロウはとてもなかよしだから、口喧嘩しがちな鬼柳とジャックは、いつもそれが羨ましい。続けていた言い合いをぱったりとやめ、ふたりともからだを小さくまるめて座り込んだ。
 寒空のしたでやる焼き芋は、暖もとれるし、おいしい芋がやけるしで、一石二鳥であった。
 鬼柳は冷え症だから、焚き火に手をかざして、しきりにすり合わせている。
「さむいのか、鬼柳」
「ん、おお。まー、大したことねえよ」
「ジャック、あたためてやれよ」
「な……!? なにをいう……遊星……?」
「おまえ手あったかいだろ」
 平然といってのける遊星をみて、ジャックは愕然とした。たしかにジャックのおおきい手は、冷えしらずでいつもあたたかいし、傷ひとつなくきれいなのだ。
「おれの……手は……おまえを……」
「ごちゃごちゃうるせえ。はやくやってやれよ」
 遊星をがっちりと掴んだ菫色のひとみと、わきわきと動かした両手を、クロウが無理やりに鬼柳の方へと持っていく。可動式のフィギュアをうごかすような手つきで、ジャックの手で鬼柳の手を包み込むと、満足そうにわらって、完成ー、と歯をみせた。
「おお! あったけえ!」
「貴様クロウうう」
「あったかいなージャックの手はー。おれ大好き。ちゅっちゅ」
 包んでいる手を口元にもってきて、くちびるをとがらせてキスする真似をする。鬼柳のふざけかたはいつもこんなベクトルだ。友愛を勢いよく飛び越えて、情愛をみせつける。わざとだけれど、そのわざとはわかりにくい。
 ジャックはゾゾゾと鳥肌をたたせると、ムカデをみるような目で鬼柳をみる。思わず罵声がくちをついて出そうになった。ジャックはへんに真面目だから、こういう冗談は受け取ることができないのだ。
「き、きさまぁぁ……!」
「ぎゃはは、まじウケる! てめーらホモかよお!」
「クロウ、貴様まで!」
「うん、おれたちそういう関係。なージャックぅ」
「甘えた声をだすな、気色悪い……!」
 遊星はにぎやかな会話をながめて、口元をわずかに緩ませた。ちいさな傷が絶えぬ武骨な指で、木の棒を遊ばせて、浅黒い肌を生き生きと輝かせる。服のしたに潜む鍛え上げられた筋肉が、人を選ぶフェロモンを発していた。おおきなひとみを鮮やかな3人に縫いつけて、こころに漂う穏やかな波を感じ取る。喧騒は遊星にとって耳触りのいいものだった。
 しかし、そちらに気をとられすぎた。気付くとあたりには焦げ臭いにおいが立ち込め、持っていた木の棒の先は真っ黒に焦げていた。
「……」
 遊星はしばし三点リーダをとばしていたが、「なにをたべるか」より「だれとたべるか」だろお、と言い放った過去の鬼柳をおもいだして、さらに笑みを深くした。最高の仲間がいれば、たべるものなどたとえ砂でも構わない。木の棒を放りなげて、ただひとこと「すまない」とつぶやく。視線があつまり、そしてうごき、焚き火にそそがれる。合わさったみっつの声が、寒空を突き抜けて飛んでいった。