ジャム漬けのビス / ブルーノと風馬
愛をお食べ / ブルーノとクロウ
魔の赤提灯 / 風馬と牛尾さん
クロッキーの鍵 / ブルーノと風馬






















 名前を呼ばれると痛むところの、一番奥の方が、飽和状態になって溢れだす涙みたいに、じんわりと濡れてきて、そこで初めて自分がここにいる、って、実感できるんだ。意識は明瞭として、錯乱するでもない。紛れもない正気なんだけど。
 徹夜はつらいことじゃないです。目にドライバー突っ込んだりして無理やり起きているわけじゃなくて、ぼくも遊星も気が付いたら朝になってて、起きてきたクロウに言われて初めて、あっ徹夜したんだ~って思うんです。ぼく……なんか……変な話なんですけど、一日を二十四時間だって、決めたくなくて。風馬さんはそんな風に考えたことないですか? だって、もったいないじゃないですか。眠たくないのに、寝ちゃうだなんて。

(ジャム漬けのビス...ブル風)//
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  こんな時間でも平然としているブルーノは、根っからの夜行性なのか、クロウが働いている間にしこたま昼寝をしたのかなんなのか、眠気など微塵も感じさせぬ様子で、セロファンを破いた。一方、起こされた直前に目の前に現れた夢境と、今しがた引き戻された現実との間で彷徨うクロウは、船を漕ぎ、閉まらぬ口端からよだれを垂らしている。
 それを見てブルーノはくすっとわらい、
「もう、よだれは早いよ~」
 袖でそれを拭ってやる。眠気の先にある瞼の裏に語りかけるような、抑揚のない穏やかな声を投げかけながら、きっちり三分を計る。時計の針がチク、タク、じわじわ時間を進める。

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  おやじに新しく注文をして、手酌で熱燗を空っぽにしてしまった。牛尾は徐に携帯を取り出し、その太い指でちまちまとキーを操作する。鍋が微かに沸騰する些細な音と、カチカチという音だけが風馬の耳に触れる。
(なんだかんだ言って、そんなに気にしていない?) そう訊かれたなら、頷いてしまうかも。だって結局は建前なんだもの。赤い爪を深爪に、桜いろをくすんだいろに頭の中で変換して、それで……したわけだし、ああ歪んでるなあって、自分のことながらいやになる。
 まがいものの恋がわるいかと言ったら、風馬は頷けない。こころが燃える瞬間は別の遠いところにある。いまは、隣にいるけれど。

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 「あああ、か、風馬さん! す、すみません、ぼく、もしかして、また……」
 レンチをガレージの床に置いて、慌てて立ちあがる。空虚をこねるように両手を動かして、眉をこれでもかと下げたブルーノの表情をちらと見て、風馬はさわやかに歯を覗かせる。
「いいさ、気にするな。それに、もう慣れたよ。用事はそんなに急ぐものじゃないし、ゆっくりでいい」
 初夏の果実のように瑞々しい笑みを惜しげもなく、いまにも泣きそうな顔をしているブルーノに向ける。若干呆れの入り混じる表情ではあるが、放っておかれた間の暇つぶしには困らなかったらしい。手に持ったそれを示して、すごいなァと零す。

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