i'm very very very hungry,in the dead of night


▼attention!
・クロウが異常快楽殺人者、遊星が屍体性愛者、ジャックが人肉嗜食者、鬼柳は被害者
・現パロでもないひどいパロディなので苦手な人はブラウザバック
・パロディの内容が内容なのでそういう殺人やらの描写も多々あります、ご注意ください 上記の単語がわからない方は閲読をご遠慮ください なお、読後の苦情は一切受け付けません















 談笑するみっつのくちびるがそこにある。蛍光灯を消し、カーテンもしめきった閉鎖的な部屋で、退屈を紛らわせる手遊びをしている。
 季節は夏へ向かっていた。昼間にはどぎつい日光がカーテンごしに部屋に差し込んでうざったい。3人総じて昼がきらいなのだった。吸血鬼のような生活をおくっている。闇が街に降り注ぎ始めたとき、彼らは地面を靴で踏み、胸いっぱいにその静けさを吸いこむのだった。
「夜はいい。余計なものが見えなくて済む」
「だよな。見えたら感覚がにぶるっつうか」
「それに人目にもつかない」
 人の足もまばらになった路地に迷い込んできた人間がひとりいる。燃えるように赤い太陽が沈みきり、天には青白い月が浮いている。その青白さを吸収したみたいな髪を揺らしながら、青年はあたりを見回している。
(ちくしょう、ここはどこだ……まさか迷っちまうなんて)
 入り組んだ街だ。治安がわるいのも、悪党が簡単に逃げ込める迷路のような路地が、毛細血管のように張り巡らされているのが理由だった。いつもサイレンが鳴り響いているその街では、浮浪者の花道なんて当たり前だし、物乞いをする子どもだってそこらじゅうにいた。
 青年はその怯みをおくびにも出さず、確固たる足取りでその石畳を歩いている。迷っている・よそものだと知られたら、それは捕食者のまえに提供された獲物でしかなくなるからだ。路上でしか生活できぬ、家も持てぬような落ちぶれたやつは、決まってこのアンテナというものがにぶい。目の前で獲物をみすみす逃していながら、獲物はいないかと目を左右に動かしている、無様なだけの死体だった。
「オニーサン、こんなとこでなにしてんだ?」
 どこから現れたのだろう、自分が通ってきた道の角から、ひとりのおとこが声をかけてきた。背中に当たって、しんとした石畳に落ちる。
 建物によってつくられた路地は、この時間になると影で塗りつぶされる。月のひかりも遮るような重苦しい路地で、水のいろをした髪を揺らして振り向く。どのくらい距離があるのだろう。路地では声がはね返って距離がわからない。逃げられる分の距離はあるだろうか? 影の沼でもがく青年は透き通った眼をこらして、おとこのかおを盗み見ようとしている。
「これからデートでな。わりィけど遅刻しちまいそうなんで、構ってる暇ねぇわ」
 おとこの足元だけが、そのへんの浮浪者が置き忘れた蝋燭で照らされている。ゆらゆら浮かんで、定まらない。
「へえ。随分さびれたとこでデートすんだなあ」
「おれたちそういうのが好きなんだよ。じゃな」
「待てよ。おれもこのへんで好きなことあるぜ。きいてくれよ」
 他人には一抹も感じさせぬほどの殺気が言葉尻ににじんでいるのを聞きとって、ふたりはくちびるを歪めて囁きあった。「もうすぐだ」「ああ、もうすぐだ……」
 一刻もはやくこの息苦しい空間から抜け出して、いっそ車道でもいいから歩きたかった。不可解ななにかに押しつぶされそうでくるしいのだ。なぜか冷や汗がとまらなかった。
 浮浪者の視線はこわくない。あれだけやせ細っているのだったら、自分でも勝てると踏んでいたし、実際何人か蹴散らしてきた。
 自分には見えぬ視線が、自分を貫き、刺しているのだと。あの揺らめくブーツがきっとそうなのだと、青年のあたまは推理と恐怖でいっぱいで、それ以外に考えることはできないほど、一種の興奮状態に陥っていた。冷えた石畳を伝って、ぬめり気のあるコールタールのようなものが足元から這い上がってくる。動けない。錯乱している。亡者の手にも似たその危険は、いまに牙を見せつける。
「おれは夜目がきくんだよ。なぜだとおもう?」
「さ、さあ?」
「てめえの死に顔をよーく見るためさ」
 陽炎のように消え失せたとおもったら、目と鼻の先で声がした。尻もちをついたときには、もうおわっている。
 右手に握られたダガーナイフが、どす赤いもので濡れている。ねっとりと糸を引くようにとろりとして、クロウのブーツにしたたりおちる。おびただしいほどの血液で壁を彩りながら、青年は絶命した。切り裂かれた首の血管が脈打って、いまだ反射で動きつづける心臓の鼓動に合わせて血が飛び出す。それはだんだんとゆるやかにおさまり、やがて雫になる。
 頸動脈を狙ったのだから覚悟はしていたものの、ナイフからそれを握る手から服から、返り血でびっしょりになったのは困った。頬にかかったものを親指で拭う。まるで雨に打たれたかのような濡れ鼠を見て、揺らめいていた蝋燭の陰からふたりが笑い声を響かせる。
「くくく……随分と派手にやったな」
「しかし血が出ると面倒だな。運ぶときに服がよごれてしまう……」
「わりい、久しぶりだったんで加減できなかった」
 吐き気のするほど濃い血のにおいのなかで、みっつのくちびるが談笑している。まるでその場にはなにもないというようにあっさりとしていて、今しがた人ひとりが殺されたなどとはおもえぬ和やかさだった。
 人が人を殺すことの外道さと理不尽さと残酷さ。強者ゆえの快感に慣れてしまった。
 事切れた青年の肩を支えると、ちぎれかかった首がぶらりと揺れた。遠心力でぐるりと回転し、あらぬ方向へとひん曲がったのを見て、クロウは「すげー。人間の皮ってけっこう分厚いんだな」と感心するのを否めなかった。
 ドアをあけて、まずその死体を風呂場に運び込んだ。血まみれでやるのもきらいではないが、今日は気分が乗らなかった。こびりついてしまった血や、さかさまにしたら出てくる血液を、まずはシャワーですべて洗い流したかった。
 風呂場のドアを閉め、コックをひねる。冷水だ。床に寝かせた青白いからだに容赦なく浴びせる。生きていたのなら飛び上がるだろうその冷たさにも、からだは無反応のまま、雨を受け入れる。
「遊星、遊星、ちょっとおれもシャワー浴びさせてくんねえかな」
 擦りガラスを叩かれるまで、かけられる声に気付くことが出来なかった。自分でおもっている以上に夢中になっていたらしい、先ほどまではぐっしょりといやな赤で濡れていたからだはすっかりときれいになり、もし体温を持っていて、首がつながっていたのなら、完全に正常者のそれだとおもえるほどにきれいだった。
「クロウ。おそくなってすまない」
「いんや、邪魔しちまってわりーな。ジャックがうるさくてよ」
 衣服をすべて脱ぎ去ったクロウが親しげにわらった。遊星が親切にシャワーを向けてやると、高い声をあげてその場で飛び上がる。そういえば冷水だったことをわすれていた。
 湯気が天井でうずを巻いている。浴槽がワインいろに染まる。遊星のひとみはこまやかに動く仲間の肌よりも、床に横たわる色くそのわるい肌に釘付けになっていた。なにものかに取りつかれたような集中力は、またしてもクロウの声を聞き逃す。
「おいったら。遊星?」
 すこし大きめの声が風呂場に響いた。我にかえり、かおをあげる。
「あ、ああ。すまない」
「ったく、しょーがねえな。メシどうする? つくっといてやるよ」
 呆れたような表情で遊星を見やる。まさか自分でやった死体を跨ぎながら言っているせりふとは思えぬほど、仲間への慈愛に満ちた声だった。ホウキ頭が濡れてしょげていたのも一瞬で、ぶるぶると頭を振ると、すぐに硬度を持ち直した。自分に浴びせられていた血が、湯で流されて、色味を薄められながら排水溝へ流れていくその過程を、どこか恍惚とした視線で眺めている。
「なんでも。クロウが食べたいものでいい」
「じゃあ~コロッケ揚げるわ。ちょうどふたつあったはずだ」
 水に濡れた死体に永遠のゆめを見る。濡れた髪、濡れた首、濡れた胸、濡れた足、それらがこれから先もう2度と動くことなく、抵抗もせず、ただただ受け入れるだけのものに成り下がってしまう、その可哀相な崩壊劇に、おのれの身をふるわせる。
 生前どんな悪事を働いた残虐者だって、どんなに優しかった慈愛の母だって、死んでしまえばそれは有機物のかたまりでしかなくて、放っておけば腐るし、愛されていたものだって遠ざけられてしまう運命にある。
 その、人が生きている限り避けられぬ、非情な末路が、いとおしくて仕方ない。人間だれしもが行きつくその場所を他人事のようにして眺めている怠惰な青年が、気が付いたら境地にいるのは自分だったと自覚したときのその絶望感・やるせなさ・清々しいほどの後悔……考えるだけでかたくなる。果てなく憧れる。体験してみたいのだった。臨死でも仮死でも即死でも構わない、1度でいいから死体になって起き上がってみたいのだ。
「ハラがへったな」
「まだ時間がかかるぜ。あの様子だと」
「くそっ……久々というのは皆共通だろう……!」
 ことば通り首の皮1枚でつながっている青年の首を持ち上げて、ちからのないくちびるに猛った性器を押しつける。生者と死者の交わりほど背徳的なものがこの世にあるだろうか? 遊星はあたまのなかで自問自答を繰り返している。反応すらない冷たさは、自分のいのちの手触りがする。死体を蹂躙してはじめて生きていることを実感できる。じつは後ろめたいことなんてなにひとつなかった。腐食の始まっているからだにあつい液体をぶっかけて、冷静にゴム手袋をはめた。
 風呂場のドアをあけて、換気扇をつける。それから洗面台のしたにしまってある、銀いろの大ぶりな刃物をいくつも取り出して、ドアのなかに消える。
 ちぎれかかってぶらぶらしていた首の皮をキッチンばさみでちょん切る。意外に重量のあるそれを膝のうえにかかえて、純銀のスプーンで目玉をくりぬいて取り出す。それを2度くり返したあと、はたと気付いたように立ち上がり、風呂場を出て、キッチンへ向かう。
「お。どんなかんじだ?」
「ボウルが欲しいんだ。ひとつか、ふたつ……みっつでもいい」
 手渡されたボウルを血まみれのゴム手袋ごしに掴んで、またドアに消える。その足取りは亡霊のようにどこか浮足立っていた。
 きっと透き通っていただろう白さは、煙草を吸いすぎた歯のように黄色く濁ってしまっている。生前は白とのコントラストできれいだったろう琥珀いろが、不安定に混ざり合っていて不気味だ。ボウルに浮かんだふたつの目玉はあらぬ方向を向いている。
 窪んだ目元から伸びるいろいろな神経を引きちぎって、ちがうボウルに入れる。首の断面からは指をねじ込んで、ふとい血管を引きずりだす。
 よく研がれたのこぎりだ。浴槽に腕をかけさせ、それを足で踏んで固定した。わずかに持ちあがったからだを一瞥して、肩に刃物をいれる。ぎこぎこと響くのは骨が削られて割れる音だ、それをまるでくだらないコマーシャルでもきいているかのように、聞き流す。すでに目は職人のそれだった。脱がせた死体の服で汗をぬぐう。
 脚の付け根に刃物をあててひと引きすると、まだ抜けていなかった血液が弾け飛んだ。よごれが目立たぬようにと好んで身につけているのは黒のTシャツだった。浅黒い頬に浴びたその血液がもうすっかり冷えているのを感じると、じつにいやらしいかおでほくそ笑んだ。
 大きめのボウルをかかえ、そのうえで腕の肉をこそげるようにしてナイフを滑らせる。骨に沿って動かすと、おもしろいくらい肉がよく剥がれた。腐り始めてひどいにおいがする。急がなければならなかった。脚は手間なので、膝の部分を叩き割って分裂させ、特に好まれる太ももとふくらはぎの部分を、重点的にこそげ落とした。
 ゴム手袋が生理中のおんなに突っ込んだみたいに赤く濡れている。その手で横たわる腹筋を撫でると、ひと筋、傷跡のような線が引かれた。それは手術痕にも見えた。
 汗がだらだらと流れおちる。そのたび、脱ぎ捨てられた服を、濡れた手袋でつかみ、粗野な手つきで乱暴にぬぐう。単純作業はすでにゆめの世界を飛び出して、自分はただの職人と化しているのだった。ボウルがいっぱいになるころには、遊星は疲れ果てている。
 赤に纏わりつかれる骨の白さといったら、万国共通でうつくしい。経験済みだ。ためしに取りきれなかった肉をひと口くちに含んでみるが、まるで理解できない。吐き出したものが生首に付着する。そして忘れていたようにその歯を押し割って、果物ナイフで舌を根元から切り取る。それは彼の大好物であったのだ。
「やっとおわったか! はやく貸せ、遊星!!」
 精根尽き果てたようにげっそりとした遊星からボウルを引っ手繰ると、すぐさまキッチンに飛び込んだ。用意がいいのか、エプロンを翻している。
「おー、ジャック。いまおわったとこだ。先食っとくぜ」
 皿に揚げたてのコロッケを乗せて、クロウが親しげに歯を覗かせた。調理器具もそのままにさっさと背中を向けてしまう。眼中にも入れようとしない。なにがなんでも自分の欲望を満たすことを優先したいのだった。
 コンロの奥の方にどっしりと置かれている寸胴鍋からおたまで4すくいほど透き通ったスープを手鍋にうつして、火にかける。弱火だ。すでに沸騰していたのか、すぐにふつふつとしてきて、べつのフライパンにオリーブオイルとスライスしたニンニクをいれたと同時に、ずるずるとした紐状のものを投入した。絞り切れなかった赤いものが染み出して、それが本来のいろを姿を現す。カビの生えた麺類のように見える。べつのボウルの丸いものもふたつ投入した。まな板のうえに寝かせた大好物の部位にブラックペッパーを振りかけながら、鍋に鷹の爪を2、3放りこんでそのまま煮立つまで置いておく。
 熱したフライパンからいいにおいがする。ブラックペッパーまみれのそれをそっと置くと、ジュウウと美味そうな音がリビングまで聞こえた。
「音、だけはいいんだけどなァ……?」
「そう言うな。味覚は人それぞれだ」
 コロッケはまだ3分の2ほど残っている。ソースでびしょびしょになった衣のきつさで眉をひそめながら、かおを近づけて笑いあう。薄暗い部屋の真ん中で密談をするように囁きあう。
 焼き目がついたそれをひっくり返して、よく色づいた焼き目を見て満足そうにほほ笑む。人が人を調理するってなんてすてきなことなんだろう。道徳の満ち欠けなど端からあたまになかった。すこし血生臭いだけの肉、いわば刺身なども死にたてのお魚を切りきざんでいるだけだし、スーパーに売られている肉だって元々は生きていたものだ、だから死んで解体されたての肉を食うことに、なんの抵抗もなかった。
 ボウルのなかの大量の赤身からすでに腐臭がただよってきているのを嗅ぎとって、収納棚から塩を取りだしてぶっかける。染み出してきた体液のような血液のようなソースを小鍋にうつして、オリジナルのデミグラスソースを試みる。クロウや遊星が一生使うことのないであろうスパイスをいろいろ振り振り、フライパンで踊るステーキの表面に焼き色をつけてはひっくり返している。香り立つガーリックが食欲をそそった。
 焼き加減はレアだ。ナイフで切れば、真っ赤な肉汁が流れ出るだろう。唾液腺が刺激されてじゅくりと唾液が湧きあがる。ごちそうを前にしたけだものみたいだ。料理人のエプロンからけものの牙が垣間見える。真っ白の皿に乗せて、カリカリになったガーリックをちょこんと添える。赤ワインのようないろをしたソースをかければ、メインディッシュの出来あがりだ。
 すでに煮たっていた手鍋にオリーブオイルをひとたらしして火をとめて、スープボウルにうつす。鷹の爪が鼻をツンと突き刺すのと同時に、直前にたらしたオリーブオイルがふわんとかおって、生臭さを引けば最高の料理と言えた。
 もう2品出来あがってしまっている。急がねばならない。ボウルから肉をいくつかまな板のうえに引きずり出し、よく研がれた包丁でそぎ切りにする。四角く薄べったい皿に乱雑に持って、器用に生卵の卵黄だけをすくって真ん中に乗せる。ネギと白ゴマをかければ、すてきな前菜になった。
「げえー。ゲテ食いジャックが来たぞ。遊星、はやく食っちまおう」
「ふん! この味がわからんとは、不憫なものだな」
 ケッとそっぽを向いたクロウの頬に、嘲笑うような視線が突き刺さる。いつもは仲裁する役目の遊星も、今日ばかりは先ほど搾取した親指の爪を眺めていて、簡易的なゆめの国に飛んでしまっている。恍惚としたひとみは熱っぽく、温度のないものに対しての思慕をおさえきれない。
 純銀のフォークは磨き上げられて、灯りの乏しいこの部屋でも不気味にかがやいた。カトラリーにこだわるジャックはそういうのに手を抜けない性質だった。とがったフォークで生肉をそのままくちに運び、卵黄をやぶって、それに絡めながら食をすすめる。なにより幸福に包まれていると感じる。征服感。満たされる自尊心。捕食する側にいることの優越感が、ジャックの全身を駆け巡る。
 ながいあいだ煮込んでいた透き通ったスープは人間の味がずっと近くでする。具をずるずるとすすりながら、丸いものを噛みちぎる。ぷちゅりと出た汁が口元にはねて顎まで伝う。べろりと長く分厚い舌でそれを舐めとって、メインディッシュを切り裂いていく。白い皿がすぐさま脂のような血のようないろでいっぱいになって、それをソースで絡めていただく。焼き加減は抜群で、表面だけがきつねいろで、なかはやわらかく、こまかな粒がひとつひとつ感ぜられ、舌のうえで転がしながら、ゆっくりと味わった。糸が束ねられたような噛みごたえだ。奥歯でかみしめる。
 腹にたまる人肉は通常の肉よりもずっと重量がある。いのちの重みというものだろうか? たしかにひと口ひと口がおそくなり、食事の時間もずっとかかる。それはジャックの自覚がないことなのだが、ひと口たべては宙に視線を彷徨わせて、ずっとゆっくりしている。噛みしめるリズムも重々しくて、うっとりと、夢見心地でいるのだった。
 最後のひと口を喉の奥に落とすと、しばらくまなじりを熱情に染めて、椅子に背をゆだねているのだが、はたと気付いたように立ち上がる。キッチンへ足を踏み入れ、ボウルのなかできたならしく集まっている肉を見て、そのなめらかな肌を青ざめさせる。処理をわすれていた。ジップロックを取りだし、小分けにして冷凍室へ入れる。それから風呂場へ行って、白い骨をひっつかんでキッチンに戻り、奥の寸胴鍋からトングで骨を取りだし、今しがた持ってきたばかりの骨をそれに投げいれる。はねっ返ったスープを避けつつ、湯気のたつ骨を見やる。長いあいだ出汁を取られつづけた骨は生気のかけらすらなく、ただの棒と化している。たくさんの人間の骨から出る味が何重にもまじりあって、なるほど不味いはずはなかった(ジャックにとって)。
 さっきまで血まみれだったナイフをくるくると回していると、手がすべって床に突き刺さった。拾う気にもなれなくて、今度は懐から出した小型の拳銃をかざして眺める。慣れた人差し指がくるくるとそれを回して、遠心力に踊らされる。ぶらり、ちぎれた首みたいに。
「これでしばらくは食糧の心配はいらないな」
「てめーだけだろ! おれらは……なあ?」
「そうだな。特にクロウは生身じゃないと……」
「あーそういやそうだな。死体はそこらへんに転がってるもんなあ。死にかけのやつやったって、ちーっともたのしくねえんだよな」
「それを言うならおれだって、おとこの肉よりも子どもの肉がいい。だが……」
「だーめだ。少なくとも、ここいらのガキは殺んねえ」
「おれはなんだって構わないが――爪が、あるなら」
 決して大声は出さない会話で部屋が満たされる。影で塗られた眼下の路地を、ぎらついたけものの眼が舐めまわすように監視している。そうして彷徨いこんだ羊が、一匹。
「……おい、また獲物だぞ」
「ラッキー! 1日に2度やれるなんて、たまんねえな」
「よし、おんなだぞ。おんなの肉は柔くてとろけるようにうまい」
「それに爪もきれいだしな」
 再び懐にしまわれたそれが高く声をあげるのは、もう、すぐそこ。