はらからモノマニア


「それじゃあ、激辛とかけて、女王様と解く。そのこころは?」
 すべてを置いてけぼりにする勢いで、夜が加速していく。ベッドに敷き詰められた布団の海で、人差し指をたてた。得意げな笑みが、シニカルに変貌する。
「あ~……ええと。かれえ……。あっ、華麗だろ!」
「ちがうこともねーけど、それじゃ女王様である必要はねーな。ほかにあるか?」
 答えを知っているからこその優越感に、鬼柳はとてもうれしそうだ。また、直後にその答えを共有することのうれしさも知っている。おのれの体温ですっかりあたたまった布団に寝転がる。腹が熱を持ってあつくなる。
「ん、ジャック。わかったか?」
 必要以上に物憂げな表情で手を挙げた。思案しつつことばを垂れ流す。
「したがいたい。……か?」
「ピンポーン! すごいすごい。そういう願望あるとか?」
「ばかな! あるわけがなかろう。女王さえ従えるのが、キングというものだ」
 得意げに言いながらも、正解を言い当てた頬はうれしさにかがやいている。人種独特のつややかでなめらかな肌が、歓喜を秘めた笑顔になる。たまらなくかわいらしいと感じる。笑顔をかくしきれない。
 一口大に切ったチーズをつまみながら、遊星がいじわるに口元を曲げた。遊星なりの純粋な笑顔であるが、仲間以外の目からみると、ひどくいやらしくて無愛想だ。手を挙げる。
「つぎはおれだ。掃除機とかけて、蝉と解く。そのこころは?」
 お題を出したものが瞬時にその空気を掌握した。さっきまで余裕たっぷりで竹串をしゃぶっていた鬼柳も、今度はうんうんと唸っている。
 ひとり一本だと言った焼き鳥を、遊星から譲ってもらった残骸だ。だからというわけではないが、鬼柳はたべたあとの串や棒をしばらくねぶっている、みっともない癖があった。目にもとめず謎かけを吟味する。慣れきっていたし、もしかしたらそれがかわいかったのかもしれなかった。
「うーーーん。うるせーとか? でもこないだ遊星が直したやつは、すげーしずかだったよなぁ」
 予想内の質問に、可笑しそうにくちびるを弓なりにする。頷いて、蛍でもいいなと付け足した。
「お! うおお、わかった、わかった! どっちもはかない、だろ?」
「正解だ」
「よっしゃあ!」
 次いで出された蛍というヒントにおもい付きはしたものの、数秒おそかった。反射神経が特にすぐれているクロウに先をこされてしまった。閃いたとしても、それを披露しなければ決してすかっとしないのだ。ジャックと鬼柳は、密かにくすぶった答えを持て余すしかなかった。熱が出てしまいそうな、気持ちのわるい温度が腹にこもっている。はやく発散させてくれと、ふたりの声が切に願った。
「よおーし、じゃあおれが出す。生卵とかけて、告白と解く。そのこころは?」
 挙手制じゃなく、耳打ち制でいこうぜ。そう提案したあと、自分だけがたのしいように振る舞っている。肘をつき、仲間の悩むかおがなによりも好きだと言いたげに、ひとりひとりを、まばらなまつげで撫でる。鬼柳の目はよく切れるはさみのように涼しげで、珍しい類のうつくしい印象をあたえる。
 やがてベッドによじ登ってきた健康的なからだが、キスしそうなほど近づいて、「当たって砕けろ」と耳打ちした。気のおけない仲間との距離感に、鬼柳は酔いそうになるのを我慢しながら、いちばんたのしそうに、ちがうと言い放った。
「なんだあ? それじゃねえなら、うーん」
「遊星もジャックも、わかんねーか? そのこころはだな……」
 ベッドからすべりおりて、三人の肩をまとめて抱く。世の恩恵をこの身ひとつに浴びているかのごとく、こころの底から笑み深い声色で言う。
「どちらもきみがいないとだめなんだよ。おまえらかわいいなぁ! 愛してるっ!」
 遊星も、ジャックも、クロウも、仕方がないといった眉の下げ方でわらっている。こころにあふれるのはなんだろう? 引っ張り合う腕の力強さはなによりもいとしく感じたし、金ぴかぴんの財宝よりも尊いものだった。
 夜が加速していく。それを追い抜く速度で、愛情のスピードは毒になる。
 毒のまわりははやい。


(SSFでの無配でした。当時の流行りにのっとって謎かけ)