揺れていざなう白色


「なあなあ、ボマーって下の方もでけえの?」
 ボマーは煎茶を噴き出した。
 シティでクロウたちが根城にしているおおきなガレージに置かれた低いテーブルが、吐き出された煎茶で濡れている。クロウはそれに遠慮なく眉間を狭めて、「なにしてんだよ勿体ねえな……」そういって脇に置いてあったボックスティッシュを差し出した。近くのスーパーの開店セールで貰ったものだ。ボマーは礼をいって几帳面にテーブルの上の物を端っこに避けつつ、きれいに吹き上げた。ティッシュを捨てると同時にさっきのクロウの問いかけを思い起こして、ちょっとだけ頬を赤く染める。
「す、すまない……」
「おう。んで、どうなんだよ」
「なに、がだ……」
「ああ? おれのはなし、聞いてなかったのかよお」
 いかにも機嫌を損ねたみたいにくちをへの字に曲げて、クロウはボマーの向かい側から隣へと座りなおした。距離が近い。ふたりが並んで座ると、おなじ人間ではないように見えてしまう。クロウは右を見上げながら左手を彼の太ももに置いた。からだをすりすりとくっ付けながら、可愛らしい色の光をたたえているひとみをくるりとしてみせる。くちびるをとがらせれば、それがクロウの必殺コンボだ。
「う……聞いては、いたが……」
「あー、わかった。答えらんねえなら仕方ねえよな」
 いたずらっ子な笑みで白い歯をみせて、右手をするすると持っていく。ベルトのバックルに手が届いた。
「!? く、クロウ」
 そのまま腕のしたにからだを滑り込ませて、無理やりにまえを寛がせようとする。クロウは手早い。制止の声を右から左へとおして、さっさとベルトを外してしまう。ズボンのボタンとチャックに片手をかけて、もう片方で股間をなぞる。モノがおおきいのかズボンがちいさいのか、余裕のないそこは疲れそうだ。今度は意地悪そうににやにやとわらいながら、手のひらでそこをこねくり回しだした。どうやら自分から求めるようにしたいらしい。
「おおお、へへ、……すっげえ……な」
 クロウはわざと聞かせるように囁く。ぱん、ぱんと軽くそこを叩きながらこちらを仰いでくるので、どこが、などときくまでもないようにさせるのが姑息だ。
 ボマーは羞恥でかおを真っ赤にして俯いている。その反応をこころの底から楽しんでいるのが、可愛さと意地悪さと狡猾さを持ち合わせているクロウだ。おそろしいおとこに易々と近付くのを許してしまった、ボマーの完全な失敗であった。
「なあ……ちょっと勃ってきてんじゃねえか? 舐めてやろうか」
 わざと尋ねてくる。そのくせ答えをきかずに、手はどんどん防具を剥いでゆく。
「どうしたよ黙っちまって……沈黙は了承と受け取るぜ」
 クロウはいよいよボマーの太もものうえにからだを寝そべらせて、完全にうつ伏せになった状態でボマーのそれを触りにかかる。こんなちいさな青年に翻弄されている――ボマーは呆然としている自分を叩き起こして、すこしおおきめの声でいう。
「く、クロウッ! や、やめ」
「おいクロウ貴様まぁぁたやっているのか! 離れろ、離れろッ!!」
 大声を遮ったのはもっとやかましい大声で、それは自尊心のつよそうな声だった。うつくしい金髪が階段の下からすこしだけ覗いていたが、ふたりの体勢を見つけるや否や飛んできて、クロウの襟首を持って持ち上げる。ジャックは何度も繰り返されるこのクロウの行為に苛立っていた。そのまま自分のかおのまえまで持ってきて、「いい加減にしろ!」そう怒鳴った。クロウはあまり残念でなさそうな口ぶりで「ちぇ~っ、あとすこしだったのによう」くちを尖らせる。
「何度目だとおもっている……」
「わかんね、数えたことねえし」
「9回目だ、9回目ッ! 毎度毎度そいつを連れてきたかとおもえば……」
 ジャックはちらりとボマーを見る。忌々しそうに目を細めた。
「いいな、今度やったら立ち入り禁止にするぞ!」
 吐き捨てて、クロウを手に持ったまま階段を下りていってしまった。残されたボマーに残るは妙にくすぶった己自身のみ……選択肢は既に決まっている。