ランダム2×3題さんのお題を利用してあみだくじ
・遊星とブルーノで「誕生日」「心変わり」……月一生誕祭
・風馬とクロウで「初恋」「オアシス」……一杯分のオアシス
・ジャックと双子で「世迷いごと」「リクエスト」……月刊アカデミア新聞部デュエル企画
・遊星とブルーノで「誕生日」「心変わり」……月一生誕祭
「遊星。ずっと気になってたことなんだけど」
ブルーノは普段、食事をしているとき、咀嚼することに没頭はしない。同じテーブルに座って同じものを食べている相手が、箸やフォークやスプーンを駆使してくちへ運んでいるときに、そのとき自分が考えていることを話しかけて、それに対する返しを聞いている間に、自分が食べるというスタンスを、無意識のうちにとっている。話すために食べるといっても過言ではないお喋りの頻度に、ジャックは最初は苛立ったように貧乏揺すりをしていたが、次第に慣れてなにも言わなくなった。ブルーノの料理の腕が上がったからでもある。
ジャックはカフェへ足を運び、クロウは配達へ出掛けた。アキや双子の子はまだ学校だし、今日は修理の依頼もない。整備に一段落をつけて、ふたりだけの昼食の時間になった。遊星の前にはリボンの形をしたマカロニの、スープパスタの皿が鎮座している。ブルーノの前にも同じように皿が並べられ、下に添えられた大きめのスプーンは、ギンガムチェックの持ち手がみんな色違いのものだ。
遊星はスプーンいっぱいにそれを掬ってから、くちへ運ぶまでに、ぼたぼたと零してしまって、跳ねっ返ったスープを腕で拭いているところだった。斜め向かいに座るブルーノが楽しそうににこにこしている。かれはいつもポッポタイムの住人を見るとき、幸福そうに目を細めるのが癖だ。まるで子猫と子犬が仲良く昼寝をしているのを見つけたときのように。
「ジャックとクロウの誕生日って、祝ってあげたことあるの？」
遊星が咀嚼しながら瞬きを繰り返している間に（遊星は飲み込むのが人より遅い）、ブルーノは席を移動して、遊星の向かい側に座った。いつもクロウが座っている場所だ。正面から見る遊星の食事姿は、斜めから見るのとは、全然違った。
「あ、遊星も。祝ってもらったことってある？」
誕生日とは戸籍のある人間にだけ与えられる祝福の日であるが、下層民であったジャックやクロウにそのような正式記録はない。ブルーノは気になって、セキュリティの個人情報データベースをハックしたことがあるが、遊星のデータはほとんどUNKNOWNで埋められていた。
「誕生日か……」
そこまで言ったとき、四人でつるんでいた時代のことが、蓋をあけた紅茶缶の香りのように、わっと蘇ってきた。心変わりする前のかれは、めでたいことがあると「今日を誰々の誕生日にしよう」といって盛大にはしゃいだが、それがあまりに頻繁に起こるものだから、みんなで「おれらすぐジジイになっちまうな」と笑ったのだった。
「日付の感覚があまりないから、気にしたこともないな」
「ほんとに？ でも僕もだけど、ないならないで意外に平気だよね～」
野良猫の誕生日は知っていて、いつもにぼしで祝うくせに、同居人の誕生日を知らなくて、おまけに祝わないなんて、そんな道理があるものか。ブルーノは今度新しいカレンダーとダーツの矢を手に入れようと考えた。
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・風馬とクロウで「初恋」「オアシス」……一杯分のオアシス
うだるような暑さである。無差別レーザービームがヘルメットを焼き、その中の脳みそが茹だってぐつぐつ煮える。煮汁が髪の間を分け入って進み、顎を伝って服に染みる。地面からの反射光で首元は真っ赤に焼け、脱げば色の違いが目に見えてわかるかと思われた。
超速で飛ばして午前の配達を終えたクロウは、昼食の前に日陰の路肩へと停車した。直射日光がないだけで、こうも違うものか。まるで都会のオアシスである。停車禁止の電子標識が立っているが、脇の自販機で飲み物を買って一息つくだけだ。迷うことなくDホイールを降り、ポケットの小銭を探った。既に前に青年がひとり並んでいる。ヘルメットを脱ぎ、片手にぶら下げながら、青年の背中を見ていると、クロウはかれが知り合いであることに気がついた。
「ああクロウ。配達の途中か？ 精が出るなァ。今日は暑いから、水分と塩分を忘れるなよ」
これ以上ないくらいに漂白されきった歯を見せて、風馬はオロロナミンGをぐいっと呷った。まるで暑さなど些細も感じてなさそうなさわやかさである。自分など、バケツに投げ入れられた雑巾のように、びしょびしょになりながら暑がっているというのに。クロウはわ～いお茶が喉を通るのを感じながら、かれの額や輪郭に伝う汗から、シトラスの香りでも漂ってきそうだと思った。
「日陰で休みたいのはわかるが、あれは感心しないな」
汗に濡れた衣服が、日陰の、冷たいおとなしいコンクリートによって、急激に温度を下げる。ふたりでその感覚を並んで味わいながら、風馬が右腕で、違法停車中のDホイールを指した。
「あー。わりい。見逃してくれ、手持ちねえんだ」
「はは。おれもそこまで鬼じゃないさ。ただし、それ飲んだらすぐに出ること！」
白んでいる道路が目の前にあるおかげで、日陰の中の色味がより濃く見える。再びあの炎天下へ舞い戻らなければならないのかと思うと、疲労もあってか、気が滅入った。遠回りになるが、狭い路地を通って行こうか。だがその分、帰宅が遅くなるのも事実だった。
隣で瓶のアルミ蓋をキュルキュルと回す音がした。見ると、茶色の瓶の中身は空っぽで、全てかれの体内に収まってしまったようだ。フリリスクを三粒噛み、風馬は「じゃあおれはそろそろ行くよ」と背を壁から離した。日陰の路地を徒歩で進むかれの後ろ姿を、クロウはずっと見送った。その寂しそうな背中は汗に濡れ、知らないうちに過ぎ去る初恋の涙のように見えた。
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・ジャックと双子で「世迷いごと」「リクエスト」……月刊アカデミア新聞部デュエル企画
大口を叩いた結果、その報いを受け止めるのは当然のことだが、ときに苛烈な刃はお構いなしに身を切り刻んでくる。子どもの好奇心である。無鉄砲で開けっぴろげな、興味100パーセントの言葉を、優しいみんなのジャック・アトラスは無下にすることができない。
「じゃあ次の質問！ 電車で痴漢している人を見つけたら、どうしますか。電車に乗る前提で答えてね」
「簡単だ。犯人をねじ伏せ、引きずりだす！」
「引きずりだして？」
「制裁をくわえる！！」
鏡に映したように同じ背丈をしたふたりの、女の子の方がクスリと笑った。歯と歯の間から漏れる息で笑ったことがわかった。頭の中にかれの友人が描かれる。ふたりは逐一ノートに書き記しているせいで、ジャックからは旋毛しか見えない。自信満々に答え、急かすように次のリクエストを募る。
「さあ、次の質問は！ なんでも答えてやろう」
双子の子の、髪をひとつに縛った方が、真っ黒になった右手の側面を見せながら、元気よく挙手をした。見るとノートもしっちゃかめっちゃかで、読めたものではない。かれなりの速記法だろうか？
「もし好きな人に恋人がいたらどうしますか！」
「力ずくで奪い取る！ それしかあるまい」
「じゃあ、わたしから。プロポーズするなら、どんなシチュエーションでしますか？」
「プロポーズか……」
ジャックはしばし顎に手をやって考え込んだ。同じ色をした４つの瞳が期待に輝く。前のページにメモした、不動遊星の回答との差異を、はやく知りたいと、心待ちにしているのだ。それこそが今回の特集のメインテーマである。真相を隠した笑顔はにたにたと変貌していく。妹は兄をそっと窘めた。
「そうだな。世界一の幸福を与えてやるといって、おれのデュエルを一番近いところで見せてやる」
「え？」
「え？」
「スタジアムでな」
「え？」
「え？」
たぶん見出しは「元キング、世迷いごと」である。
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